持続可能な住まいを目指して誕生した私たちにとって、最もベーシックで最も大切なキーワードである「持続可能性」。近年ではSDGs(Sustainable Development Goals)という言葉を耳にする機会が増えたこともあり、少しずつ身近になってきたのかもしれません。
それでも「持続可能な住まい」と聞いて、すぐにイメージが湧く方は少ないのではないかと思っています。例えば、長寿命な構造体であること?消費エネルギーを削減すること?環境に優しい素材でつくること?もちろんその答えそれぞれが持続可能な住まいであると思いますし、そのどれもが必要だと考えています。
持続可能な住まいを実現するためには、様々な側面から考える必要があります。その上で、大きく分けて4つの観点での持続可能性を大切にしたいと考えています。
①物理的な面
冒頭で触れた長寿命な構造体という点はこの中に含むと考えています。
地震大国日本の中でも、南海トラフの影響を大きく受けると想定される愛知県では、いつか起こる巨大地震に対しての備えは必要不可欠です。耐震等級について詳しくはまたの機会にしますが、一度の地震に耐えたとしても、繰り返し起こる可能性のある余震に対して耐震性能を長持ちさせるために、制振装置を導入することもおすすめしています。
また、構造体以外であっても、例えば屋根や外壁などの外装材、室内の床などの大きな面を占めて、かつ後から更新することが難しい部分については、特にこの観点で選定することが大切だと思っています。
②経済的な面
住まう人の家計基準で考えれば、住まいにかかる費用を考えると大きくは建築する際にかかるイニシャルコストと、住み続ける中での光熱費やメンテナンスにかかるランニングコストに分けられます。全体の予算感にもよりますが、そのバランスが大切だと私たちは考えています。建物の断熱性能を上げることで建築にかかるイニシャルコストもやはり上がりますが、同時にパッシブデザインを採用し暖房費や冷房費などのランニングコストを抑えることで、一生涯という長期スパンで見たときの住まいにかかるコストを削減するご提案をしています。合わせて、暖房費や冷房費といった光熱費が削減できるということは、社会として考えればエネルギー問題や炭素量の問題など、環境への負荷を削減していることにもつながります。
③身体的な面
住宅とは、そもそも住まう人を守るための装置であり、安全で住まう人が安心して暮らすことができる器であると考えています。耐震性もそのためには大切な要素ですが、その他にも住まいの中で起こる健康リスクを可能な限り取り除くことが必要だと言えます。
例えば、部屋間の温度差に起因するヒートショックによる循環器系へのダメージと溺死についての問題、結露に起因するカビの問題、室温が低いことに起因する呼吸器系疾患へのリスクなど……。その多くは日本の住宅の断熱性能や気密性能が低いことによる健康被害と言えます。
また、近年では高気密高断熱住宅が増えたことや、年間の真夏日の日数や熱帯夜の増加などによる熱中症のリスクも増えてきました。断熱性能が上がると冬の室温は下がりにくくなるため、先述のリスクを避けらるようになりますが、逆に一度日射熱が室内へ入ってしまうと深夜になっても室温は下がらず、熱がこもった状態になります。断熱性能の高い家ほど、日射の遮蔽をしっかり考える必要があります。その他にも日本人に伝統的に根付いているもったいない精神であったり、光熱費が高くなってしまうことを懸念して暖冷房設備を使わずにセーブしてしまうことも背景にあるのかもしれません。
いずれのケースに対しても、本来住まう人を守る装置であるはずの住宅によって健康が害されることのないよう、作り手として責任を持つ必要があり、その先に快適な住まいがあると考えています。高気密や高断熱、パッシブデザインはそのための手段でしかありません。
④情緒的な面
その建物に住み続けようと思ったとき、住まう人の心理というものは避けることのできない要素であり、最も大切な要素だと思っています。
立地や住まう人の価値観によっても異なりますが、例えば時代が変わっても飽きることのない普遍的な姿かたちであること、経年劣化するのではなく歳を重ねることで味わい深く愛着が湧く素材であること、気持ちの良い場所には大きな開口部があり、外部とつながったり空が見えたりすることで季節の変化や時間の移ろいを感じられる空間などを大切にしたいと思っています。その他にも、夏に「暑い」と言いながら外で食べるアイスクリームの美味しさだったり、気候の良い季節に抜けていく風の心地よさだったり、そういったことを日常の中で感じられることこそ贅沢であり、暮らしの豊かさだと、私たちは考えています。
この4つの観点は、住まう人によってバランスが異なると思います。その価値観と周辺環境に寄り添い、最適なかたちをご提案いたします。